設立から1年半。
産学連携が切り拓く新たな技術開発の挑戦(前編)

2022年10月、「日本のものづくりを変革する」をミッションに掲げ、大阪大学と神戸製鋼は共同で「KOBELCO未来協働研究所」(以下、未来研)を立ち上げました。大阪大学が持つAIなどの先端技術や科学力と、神戸製鋼が培ってきたものづくりの経験と技術を組み合わせることで新たなソリューションの創出と社会実装を目指し、さまざまなプロジェクトが進められています。

切削加工プロジェクトリーダーの赤澤浩一さんと、プレス成形プロジェクトリーダーの伊原涼平さん、企画マネジメントを担当する加藤淳さん、広報担当の北川早紀さんに集まっていただき、前編ではプロジェクトの取り組みや課題感などについて、お話を伺いました。

製造の現場から見えた課題を
解決する

この1年半取り組まれたプロジェクトの感想をお聞かせください。

伊原涼平(以下、伊原) 私はプレス成形を担当しています。技術ゼロからのスタートでしたが技術開発を進め、現在は当初計画の7割ほどまで進んでいます。2023年の5月からはコンサルタントから指導を受け、ビジネスモデルの検討を始め、まだ改善すべき点はありますが、一つの形ができたことで、お客さまへのヒアリング内容も変化してきたと感じます。

赤澤浩一(以下、赤澤) 新規事業の開発は、これが初めての取り組みでしたので、当然ながら不安はありました。社内で使うのなら多少の粗さは問題ありませんが、社外の方に提供し、対価をいただくレベルまで品質を高めるのは難しいと感じていました。しかし、プロジェクトを進める中で、お客さまや、専門領域が全く違う社内の技術者たちから、「この技術には価値がある」という言葉をいただけたことがモチベーションになりました。

伊原 私たちの100%が、お客さまにとって100%の満足度とは限らず、場合によっては、200%の完成度にする必要があるかもしれません。

赤澤 そこが分からないから、不安になるんですよね(笑)

加藤淳(以下、加藤) 神戸製鋼では技術開発は盛んに行われていますが、新規事業開発はこれまでほとんど経験がありませんでした。プロジェクト発足当初は、赤澤と伊原には戸惑いもあったかと思いますが、開発が進むにつれて、意識や取り組み方に大きな変化が見られたと思います。

技術開発において、関連する企業からアンケートとヒアリングを行ったと伺いました。

伊原 成形加工プロジェクトでは、自動車部品のプレス金型を対象にしているので、金型メーカーとプレスメーカーの2業種にヒアリングを実施し、開発中の技術がお客さまの悩みや困りごとを解決できるのではないか仮説検証を行いました。

ヒアリングでは、想定していた課題だけでなく、想定外の課題も見つかりました。開発中の技術で解決できる課題もあれば、そうでないものもありましたが、新しい技術サービスのビジネスチャンスにつながる機会になったと思います。

赤澤 切削加工の現場では、少人数で工場をいかに効率的に回せるかが重要です。収集したデータを分析することで、人の動きの効率化や、人が機械から離れていても安定して稼働するシステムを構築できるかを検討しました。ヒアリングを重ねていくと、新たな課題も見えてきました。

最新の工作機械やロボットは高性能で、さまざまなデータを取得しますが、その活用方法が分からないという相談を多くいただきました。

これらのデータを分析し、解決策を提案することが新たなサービスにつながるのではと考えています。また、上流工程に当たる設計業務の課題が大きいことも改めて分かり、当初の想定を超え、提供すべきソリューションが増えていくのを感じています。

職人の技、
知見を技術で補完する

技能継承や人材育成も、アンケート(ダウンロード資料第一報及び第二報参照)から浮かび上がった課題ですね。

赤澤 はい、これらの課題は多くの会社で共通しているようです。ある程度は技術で補完することは可能ですが、特定の職人にしかできない高度な技能を完全に置き換えることは難しく、それはまた別のプロジェクトに発展するのではないかと感じています。

職人の技を技術で置き換えることは簡単ではないのですね。

赤澤 ある程度までは可能だと思いますが、完全には難しいですね。しかし、なんらかの形で技能の一部をデータ化できたなら、職人やその周辺の人たちにコミュニケーションや気付きを促すことは可能だと考えています。デジタル化できる技術は数値化し、置き換えられないものはコミュニケーションや気付きを促すきっかけとして活用できたらと思います。

伊原 成形加工プロジェクトでは、金型に焦点を当てています。金型は設計通りに作るだけでなく、実際に使用して作る完成品が品質基準を満たす必要があり、成形品として不合格であれば、金型を修正しなければいけません。材料が高強度化しているため、金型の修正に多い場合は10回以上、期間的には1年以上かかることもあります。開発中の技術で、この修正回数を減らすことが私たちの狙いです。一方で、金型の最終調整となると、職人のカンやコツに頼らなければいけません。もちろん、金型だけでなく、設計やその他の工程でも熟練の職人の技術や知見を代替することは難しく、今後の課題として認識しています。

現在のプロジェクトの進捗状況を教えてください。

伊原 残り3割の完成を目指し、技術開発に注力している段階ですが、お客さまに使っていただけるような製品仕様なども並行して検討を進めています。

赤澤 ITベンチャーで実績のある事業家からのアドバイスを受けながら、ビジネスモデルの補強、ソフトウェア製品の使い勝手やユーザーインターフェースの改善を進めています。2024年9月にはアプリケーションを完成させせる予定で、お客さまからのフィードバックをもとに、2025年度内の正式リリースを目指しています。

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